スティーブ・ジョブズ (Steve Jobs) ネタバレあり感想 心のアルゴリズムは。

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オススメ度 ★★★★★



あらすじ


1984年、アップル社の新製品・Mac(Macintosh)の発表会を40分後に控えたスティーブ・ジョブズ(マイケル・ファスベンダー)は、部下のアンディ(マイケル・スタールバーグ)ともめている。

というのも、ジョブズはどうしてもMacintoshに「ハロー」とあいさつさせたかったが、システムの不調でどうにもうまく動いてくれないのだ。

マーケティング担当者のジョアンナ(ケイト・ウィンスレット)は諦めるよう説得するが、彼は聞く耳を持とうとしないどころか、Macに挨拶をさせられなかったら、アンディを「今回の発表会を失敗させたエンジニア」と舞台上で公表してやると脅しをかける。

そんな慌ただしい状況の中、娘のリサ(マッケンジー・モス)の認知に関する問題や、Apple社の共同設立者でかつての友人ウォズ(セス・ローゲン)との確執など、様々な問題が降りかかってきて...

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感想


よく天才にはサイコパスが多いとか、頭のネジが外れちゃってる人が多いなどと耳にします。
では、2000年代の現代を我々とともに生きた、新世代の天才はどうなのでしょう?

名前がそのまんま映画のタイトルにもなってしまったスティーブ・ジョブズは、我々にとって最も身近な天才のひとりだったと言えるのではないでしょうか。

いまやスマートフォンといえば! というレベルで我々の生活に深く根ざしているiPhoneやMacintoshのコンピュータを世に送り出し、今後を期待されつつも、2011年に56歳という若さでこの世を去ってしまったジョブズ。

天性のカリスマ性や、一度会社を追い出されながらも、1997年にCEOとして復帰するやいなや、経営難に陥っていたApple社を信じられないスピードで復活させるなど華やかな経歴が常に話題を呼んだ彼ですが、
一方ではその独裁的な経営方で次々と有能なエンジニアたちを追い出したなど悪い噂も頻繁に聞こえてきました。

しかし噂は噂。
ニュースで取り上げられる有名人の言動は、彼らの人生の中でも、人の注目を集めるような過激なものを選りすぐったものばかり。
そこだけを見て、彼らがどんな人間だったのかを決めつけることなんて到底不可能だと思いませんか。

一体、2000年代のリアルヒーロー、スティーブ・ジョブズは、本当はどんな人物だったのか?
そんな疑問に深く、そして鋭く切り込んだのが、本人の名前を冠した今作「スティーブ・ジョブズ」。

およそ2年前にも、見た目が驚くほどそっくりだったアシュトン・カッチャー主演にてスティーブ・ジョブズの伝記映画は製作されていましたが、中身はといえば、どこにでもある、というかジョブズという人物以上にアップル社の功績の方に迫った微妙な作品でした。

しかし、見た目はあまり似ていないマイケル・ファスベンダーを新たな主演に迎えた今作は一味も二味も違います。
なんとこの映画、ジョブズの人生を単純な時系列のドラマとして描くのではなく、

アップル社、そしてジョブズにとってのターニングポイントとなった3つの新製品発表会の開幕直前の舞台裏で起きたドラマを描くことによって彼の人間性をどこまでも明瞭に浮かび上がらせた、伝記映画の常識を根底から覆す大傑作映画となっているのです。

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最初の舞台はアップル社がMacintosh、いわゆるMacを発表した1984年。
発表会開幕まであと40分、主役であるはずのジョブズは不満な様子で部下のアンディに何かを迫っています。

ジョブズは発表会の幕開けとして、Macに「ハロー」と挨拶をさせたかったのに、直前になってシステムに不具合が起こり、愛しの彼女がだんまり状態になってしまったのです。

「今から40分で直すのは不可能だ」「Macの挨拶パートは抜きでいきましょう」と必死の説得を続ける部下たちの言葉には耳を貸さず、
「僕が挨拶をさせたいんだから、Macは必ず挨拶をするんだ」「挨拶のパートを抜かしてもいいが、それなら発表会もキャンセルだな」などと、かなり強引な方法で自分の要望を通そうとするジョブズの姿が描かれます。

出だしの部分で既に強気で頑固、傲慢な気質の片鱗を見せる彼ですが、まるで突然変異の超大型台風のような彼の勢いは止まりません。
控え室にやってきた、元彼女にして自分の娘の母親となる女性クリサン(キャサリン・ウォーターストン)と、そして実の娘であるリサ(マッケンジー・モス)にむかって「この子は僕の子じゃない」と強い口調で言い放ったり、
挙げ句の果てには、先駆けて受けていたタイム誌の取材で「全米の28%の男性が彼女の父親である可能性がある」などとんでもない発言をし、それが全米中に広まってしまっているということまで発覚します。

こりゃあとんでもねえゲス野郎だ。日本で最近話題のゲスの極みさんとは比べることすらアホらしくなってくるよ...

なーんて逆に感心している暇すらも与えてくれません。
ジョブズもクリサンもアンディも、さらにはジョブズ専属のマーケティング担当ジョアンナ(ケイト・ウィンスレット)まで、とにかくみんなが相手の会話に割って入っては抜けていってと喋りまくり。

一つの話題が終わったら、次の瞬間には別の人物と全く違う話をしていたりと、台風の目となるジョブズが周囲を巻き込み、次々とマシンガントークを展開していくことによって、物語が展開していくのです。

これこそが、この映画の最大の特徴にして魅力。
なんとこの作品、プロットの99.9999...と、限りなく100%に近い部分が「会話」で埋め尽くされているんです。

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この世には、劇中のセリフのうち9割が全く意味を成さない映画が溢れています。
しかしこの映画は、プロットがほぼ登場人物たちの会話だけで構成されているにもかかわらず、無駄なセリフがどこにも見つけられないのです。

部下への叱責、会社を共に立ち上げた元親友スティーブ・ウォズニアック(いつになく最高だったセス・ローゲン)との一見和やかなのに、聞いているこちらがプレッシャーで押しつぶされそうになる静かな戦争や、
仕事仲間という関係を超えて、人間としてのジョブズを心から気遣ってくれるジョアンナとの口論など、
劇中で一瞬でも尺を取る会話は、ジョブズという人間を紐解いていく上で欠かせない鍵となっているため、何が何でも聞き逃してたまるものかと、目も耳も画面に釘付けにされてしまうんです。

ん、この手法、どこかで見たことがあるな...と思った方もいるかもしれません。
そう、今作の脚本を担当したのは、ジョブズと同じくデジタル時代の革命家として台頭したfacebookの開発者マーク・ザッカーバーグの内面を、同じくハイスピードなマシンガントークで彩った名作「ソーシャル・ネットワーク」の脚本家アーロン・ソーキン。

「ソーシャル〜」では主人公のマークが早口でまくしたてればまくしたてるほど彼の哀しみが浮き彫りになっていくという展開が実に見事でしたが、その構図は今作でも変わっていません。

上述したように、今作は3つの新製品発表会の裏側を追った作品です。
1984年のMacintosh発表、1988年に行われた、アップル社を追い出されたのちに開発したNeXTの発表会、そして1998年、アップル社のCEOに復帰したのちに開発したデスクトップ型コンピュータ、iMacの発表会を舞台としているのですが、

歳月を経ていくほどに過去のしがらみや問題との決別をしていき、ジョブズの視界がクリアになっていく様子がこれでもかというほど事細かに描かれているのが本当に素晴らしい。

それは、「スラムドッグ$ミリオネア」で世界を魅了したダニー・ボイル監督がしかけた映像のトリックからも明らかです。
1984年を描いた映像は解像度の低い16mmカメラで撮影されており、1988年は32mmカメラ、そして1998年はデジタルでのクリアな映像が使われているんです。
だんだんとクリアになっていく映像は、まるでジョブズの心の雲が少しずつ晴れていっていることのメタファーのようにさえ感じられます。

プロジェクションマッピングを駆使した演出によって、会話劇の中にも視覚的なわかりやすさを加えているのも超グッド。
あまりの美しさに、思わず目を奪われてしまいます。

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彼の内面の変化を最もよく表しているのは、実の娘リサとの関係でしょう。

最初は認知さえしようとせず、まだ4歳だった彼女に向かってまともな心を持った人間が口にできるものではない最低の言葉を言い放ったりすらしたリサと、年月を追うたびに少しずつ心の距離が縮まっていく様子がこれ以上ないほど鮮明に描かれており、

特にラストで明かされる驚きの事実には涙が止まらなくなってしまいました。
あんなにも傲慢で冷酷だったジョブズが、現在の我々のライフスタイルさえも完全に変えてしまった「あの」商品を発明したきっかけが、まさか自分の娘のためだったなんて。
真実はぜひご自身の目でお確かめいただきたいと思います。

そんなジョブズを演じるマイケル・ファスベンダーの演技は、まさに完璧。
まるで竜巻のような激しさと知性、傲慢なのになぜか見ているだけで心惹かれてしまう不思議な魅力に、言葉の端々に光る皮肉と紙一重のユーモアセンスなど、様々な側面が一人の人間の中に同居している様子がここまで見て取れる演技って、なかなかお目にかかれるものじゃありません。オスカーノミネートも大納得かな、と思います。

上映時間120分。
それを構成するのは、それぞれ開演を40分後に控えた、3つの新製品発表会の舞台裏。
この映画にはジョブズの少年時代や赤ちゃん時代、会社を立ち上げたきっかけなどが詳しく描かれているわけではありません。

なのにどうしてでしょう。
時間軸もブツ切り、本当に劇中時間の40分をそのまま3回追いかけただけの物語なのに、ここには私たちの知りたかった孤高の天才スティーブ・ジョブズの真の姿がありありと映し出されていて、彼の姿をどこまでも目で追ってしまいたくなるんです。

この映画は、ただの水掛け論のマシンガントークバトルなんかじゃありません。
一人の人間の内面に、斬新すぎる角度から、これ以上ないほどに深く切り込んだ最高のヒューマンドラマです。

正直、まだ2016年も始まって2か月も経たないうちにこんなことをいうとは思っていなかったのですが、早くも今年のマイベスト第1位は確定かと思ってしまうほどに素晴らしいこの「スティーブ・ジョブズ」を観て、私たちのデジタルライフを作り上げた天才の心の中を、ちょっとでも覗いてみませんか?



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2016/04/20 (Wed) 23:38

16日のことですが、映画「スティーブ・ジョブズ」を鑑賞しました。 1984年のMacintosh、88年のNeXT Cube、98年のiMacというジョブズの人生で波乱に満ちた時期 3つの新作発表会にスポットを当て 伝説のプレゼンテーションの舞台裏を通し、信念を貫き通そうとする姿や、卓...

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