スポットライト 世紀のスクープ (Spotlight) ネタバレあり感想 闘う心が、真の力だ。

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オススメ度 ★★★★★



あらすじ


2002年のボストン。

ボストン最大の発行部数を誇る日刊紙ボストン・グローブ紙において、一つの事件に対して長期的な調査を行う部門「スポットライト」に勤めるウォルター(マイケル・キートン)マイケル(マーク・ラファロ)たちのチームは、
グローブ紙に新しく入ってきた編集者マーティ(リーヴ・シュレイバー)の加入をきっかけに、その存在自体は長い期間知られていたが、決して大きな問題となることのなかった、カトリック教会の神父による少年少女への性的虐待を次のネタとして調査を開始する。

事件についての詳細を調べるため、被害者や神父たちの弁護士にかけあうも、なかなか確信を付く証拠をつかめない。
そこには、ボストンという都市に根付き、法的システム全体にさえ及ぶ、カトリック教会の圧力が関係していた...

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感想


カトリックの教会において、神父さまたちが子どもたちに性的ないたずらをしているという話は、聞いたことがあるかもしれません。
映画でいうならば、メリル・ストリープとフィリップ・シーモア・ホフマンが主演した「ダウト〜あるカトリック学校で〜」あたりが有名と言えるかと思います。

しかし、こういうことは被害者がちゃんと口を開き、公的に、法によって裁かれることがない限り、明るみに出たりすることは少ないはず。
性的な暴行によって心に傷を負った子どもたち、特に男の子は、同性の神父によってレイプされたなどという屈辱的な体験を自ら告白することそのものにも大きな苦痛を伴うことでしょう。
だからこそ、このような事件が明るみに出ることは少ないのだ...と、私もこの映画を観るまでは全く気付いていませんでした。

今作「スポットライト 世紀のスクープ」は、そんな風に長い間存在が仄めかされつつも、決して明るみに出ることのなかった性的虐待の事件の謎に対して真っ向勝負を挑み、2002年に600近くの記事を発行した地元の最有力紙ボストン・グローブ内に存在した「スポットライト」というチームの闘いの日々を描いた作品となっています。

「スポットライト」は、長期間にわたって一つの大きな事件を調査するという、日刊新聞としては珍しい少数精鋭チーム。
ここ数ヶ月間を、自分たちが調査するにふさわしいネタを探していた彼らは、外部から迎えられた新たなトップエディターのマーティ(リーヴ・シュレイバー)が最初のミーティングで「教会の神父たちによる子どもたちへの性的虐待を調査しよう」と提案したことから、刺激的で目の覚めるような事件の調査に乗り出すこととなります。

しかし、読者の大部分がアイリッシュ系カトリックであるボストン・グローブ紙において、教会の罪を暴き出す調査をすることは容易ではありません。

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過去に、これらの事例において神父たちの弁護をした弁護士たちは、当時の書類や神父たちの名前を提供したり、当時の話をすることを拒む人たちがほとんど。

カトリック教会が強い権力を持っているボストンという街では、教会に不都合な事件の証拠はすべて圧力によってもみ消され、闇に葬られてしまいます。
唯一の手がかりとなる被害者たちの訴えも、上述のように証言することそのものに強い痛みを伴うため、なかなか大きく声をあげることすらできないのです。

その痛みは、劇中に登場する被害者たちの告白から、私たちの心にも傷を残すほど強烈に伝わってきます。
神父様は教会においては神様のような存在で、そんな神様が自分だけに特別な興味を持ってくれたら、それは子どもたちにとっては至上の喜びです。

そんな神様は、子どもたちとの親交を深めていくフリをして、ある時、子どもたちに性的な本を一緒に読んだりして、「このことは私たちだけの秘密にしておくんだよ」と言って、2人だけに特別な罪を作ってしまいます。

その次には、「私のをしゃぶりなさい」と、真の性的な暴力を振るうようになるのです。
しかし、神父様は自分にとって神様のような存在で、しかも2人だけの罪を共有してしまっているのです。子どもたちにそれを拒否するだけの力はありません。

被害者の中には男の子も女の子もおり、中には自分がゲイであることに気づきながらも、誰にもそのことを打ち明けられずに苦しんでいた少年さえもいます。
その少年は、「神父様だけが本当の自分を受け入れてくれたんだ」という喜びから、どんなに辛いことでも従ってしまったのだと涙ながらに告白します。
まだ幼い少年の弱みに付け込んだ、こんなにも許しがたい事件が眼の前で起こっているのに、教会の圧力によって誰も何もしようとしなかったのです。

その様子は、記者の一人であるマイケル(マーク・ラファロ)が取材した弁護士のミッチェル(スタンリー・トゥッチ)の「一人の子どもを育てるのに町一つの力が必要だというのなら、その子を虐待するのにも町一つの力が必要だ」という言葉が完璧に表現してくれています。

まるで街全体が敵のような状況の中、被害者たちを救うため、ボストンという街の未来を救うために行動する記者たちの姿が輝いていました。

これまで様々な事件を調査してきているだけあってスピーディに突撃インタビューや証拠の検証に当たっていく彼ら、特に自らの足を使って調査をするマイケルとサーシャは、調査中には大きな感情の動きを見せないようでいて、心の中では被害者たちを救いたいという強い思いに突き動かされているということが、過剰ではないけれどもしっかりと伝わってくるところが素晴らしい。

演じたマーク・ラファロとレイチェル・マクアダムスの二人は、オスカーのノミネートも大納得な最高の演技を見せてくれています。受賞を逃したのが惜しいですね。

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調査の中で明らかになっていくのは、虐待を行った神父たちの実名や、信じられないほどの加害者・被害者の数、隠蔽に関わった組織の存在、そして、ボストン・グローブも結果として隠蔽に加担してしまっていたのだという衝撃的な事実...
最後まで緊張感が途切れることはありません。

過剰な演出がなく、あくまでも自然にリアルな姿を映し出すことに終始したことも成功の理由として挙げられそうです。

そんな中、他のどの雑誌や新聞よりも早く、そして正しい形で情報を届けることを求める彼らの必死な姿に、思わず呼吸すら忘れてしまうほどに引き込まれてしまいます。

早く記事を出してしまいたい、しかし決定的な証拠を見つけるまで、まだ時間が必要...記者たちの中に走る緊張感が、リーダーのウォルター(マイケル・キートン)とマイケルの間に起こる口論として一気に爆発するクライマックスシーンには、記者たちの強い思いが凝縮されていると言えるでしょう。

オスカーでも作品賞を受賞した今作が、なぜここまで評価されたのか?

それは、新聞さえもデジタル化され、自分で誰かに訪ね歩かなくともスマートフォンの画面を覗けばすべてが手に入ってしまうかのような錯覚を起こしそうな現代ですが、
真に心を打つジャーナリズムというのは、真実と正義を追い求める人々が自らの足を使って必死にかき集めた、信念に基づいて生み出される情報なんだということを改めて示してくれたからに他なりません。

現在少しずつ廃れつつある紙の新聞というメディアから見事に現代を映し出したこの「スポットライト 世紀のスクープ」は文句なしに今年の最高傑作。
実際に作品を観たら、あなたもきっと「オスカー作品賞はこれしかなかった」と思わされること間違いなしです。

闘う心こそが真の力だと教えてくれる、2016年のランドマークをぜひ劇場で。



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2016/05/22 (Sun) 14:36

欧米社会の闇を満喫できる映画でした>

IT社員の公私混同 - http://sonykichi.blog.jp/archives/60383633.html
2016/05/27 (Fri) 22:28

5日のことですが、映画「スポットライト 世紀のスクープ」を鑑賞しました。 アメリカの新聞「The Boston Globe」 2002年 新たな編集長の指示の元 スポットライトチームは 彼らがこれまでうやむやにされてきた 神父による児童への性的虐待の真相について調査を開始する...

笑う社会人の生活 - http://blog.goo.ne.jp/macbookw/e/064508c435b92cda5437e3144a67e277
2016/05/31 (Tue) 17:07

人が人を殺す事は、ある。しかし、組織が人を殺す、それを暴いたのがこの作品である。実際に刃物や銃器で殺される訳ではない。だが、被害者達は一度精神的に殺されている。そして被害者達が後に自殺をしてしまうケースも多い。世紀のスキャンダル。聖職者が教会の地位を利用して、信徒の子供達に性的虐待を行う。それも一件や二件ではない。…マサチューセッツ州ボストンの新聞、グローブ紙は、「スポットライト」という長期...

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本作は、アメリカ人の(欧米人の)心の中に深く根付いているカトリック教会と、それが長年にわたって犯してきた犯罪をテーマに、そこに鋭く切り込んで行こうとする地方新聞の記者たちの勇気ある取材活動を、セミ・ドキュメンタリー風に描いた社会派ドラマの傑作だ。 いわ…

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