海よりもまだ深く ネタバレあり感想 「今」を生きられたら。

このエントリーをはてなブックマークに追加

qwe8wdhbuvifsdsvas.jpg

オススメ度 ★★★★★



あらすじ


篠田良多(阿部寛)は、15年前に一度だけ文学賞を受賞したことのある小説家。

しかし、今やその栄光も何処へやら。ヒット作を生み出せないどころか新作に着手することすらできず、
「小説のための取材」と称してはたらいている探偵事務所では、依頼人から受けたネタを使ってターゲットを脅し金をむしり取るなどとんでもないことばかりしている。

しかも、それによって得たお金はすべてパチンコや競輪などのギャンブルにつぎ込んでしまうから常に文無し。
姉の千奈津(小林聡美)や母の淑子(樹木希林)にお金をせびるという日々を過ごしていた。

まさにダメ男の典型のような良多は、離婚した元妻の響子(真木よう子)への未練も断ち切れない。
響子のことを尾行しては、新しい恋人の福住(小澤征悦)と楽しそうに過ごす彼女の姿に嫉妬の炎を燃やしていた。

そんな彼の唯一の楽しみは、月に一度許された、響子との間にできた息子・真吾(吉澤太陽)との面会の日。

この日も、お金もないのに見栄ばかり張って、父親らしいことをしてやろうと張り切っていた良多だったが、その日は台風24号が近づいていて...

haidsfnbvafdsfdvfa.jpg

感想


人生って、「こんなはずじゃなかった」の繰り返しだと思うんですよね。特に男性にとっては。

「今は子どもの頃からしたかった仕事をして、学生時代に好きだったあの人と一緒にいて、夢だったあの場所に住んでたはずなのに...」って、悔やんでもどうしようもないことにしがみつきながら、
目の前に迫ってくる家賃だったり仕事のことだったり家庭のことだったりとの折り合いがつかないまま、変えようもない過去のことや、叶いっこない未来のことばかり口にしながら、歳月ばかりが過ぎていく...

「そして父になる」「海街diary」で新しくてどこか懐かしい日本の家族像を描いてきた是枝裕和監督の最新作「海よりもまだ深く」の主人公はまさにそんな男性のお話です。

是枝監督×阿部寛主演もこれで三回目。下の名前は引き続き「良多」な主人公・篠田良多(阿部寛)は、一応小説家。

「一応」と付けたのは、彼が小説家としてちゃんと活動していたのは15年も前の話で、今は「小説のための取材ですから」と称して探偵事務所で働いているから。
「小説のため」とは口ばかりで、使えそうな言葉をメモして家の壁に貼ってはいるものの、壁が埋め尽くされていくばかりで、肝心の小説そのものには着手することすらできていないんです。

そんなんだから妻子には見捨てられ、子どもの養育費どころか自分の家賃や光熱費すら払えないという体たらく。
いい大人なのに、自分で自分の面倒すら見切れていないという。

しかも探偵事務所の仕事だって、全然まともにやってないんですよ。
事務所の長(リリー・フランキー)には隠れて、尾行する対象のターゲットを逆にネタをチラつかせて軽い脅しをかけて、「依頼人には嘘の情報を渡すので...」と依頼人とターゲットのどちらからもお金をむしり取るというとんでもない悪徳ビジネスを営み個人的にお金を得ていたり。ついには高校生からまでお金を巻き上げちゃったりしてるんですね。
普通に犯罪の類じゃないんですか、これ。

じゃあせめて、そのお金は自分の生活費、そして子どもの養育費を払うために使っているんだよね?
と思いきや、お金を得ると「倍にして払ってやる」と息巻いてすぐに競輪場やパチンコ屋に向かい、また一文無しに逆戻り...という毎日を繰り返しているんです。ほんと、とんでもないダメ男なわけですよ。

競輪場で選手達に「勝負しろよ、勝負をよぉ〜!!」と怒鳴る良多ですが、それは寸分の角度の狂いもなく帰ってくるブーメランってやつですよ、あなた。

bqewjvfvsdcxvxczdfsd.jpg

阿部寛って言ったら、濃い顔に長身、深くて男らしい声が魅力のイケメン俳優ですよ。
そんな彼が演じているのに、今作の良多はどっからどう見てもダメ男。最初っから最後までその印象が覆ることはないっていうのはすごいことだと思うんです。

で、良多のダメ男っぷりに拍車をかけているのが、探偵事務所でのパートナー・町田(池松壮亮)くん。
まだ若いのに、どこか自分の人生に折り合いをつけているような雰囲気を醸す彼は、「良多さんには借りがあるんで」と言って、彼の言うままにお金を貸してあげちゃったり、事務所に隠れてやっている悪事にも加担していたり。

悪いことをしているはずなのに、本当は彼の行為って、他人にとっても良多にとっても良くないことなはずなのに、どうしてこうして町田くんからは一滴の悪意も感じられないんですよ。自分にできないことをやっている良多に、どこか希望すら抱いているようにも見えるというか。池松壮亮くんの自然すぎる演技もそれを際立たせているように思えます。

じゃあ足りないお金はどうしてるの?
そりゃあもちろん、無心する相手と言ったら家族しかいないでしょう。

姉の千奈津(小林聡美)さんには堂々とお金を貸してくれないかと言いに行くし、団地住まいの母・淑子(樹木希林)さんになんて、家に遊びに行くふりをしては、亡くなった父が残した金目のものを物色して盗み出そうとするなんていう恐ろしいことをしています。

淑子さんはそんな息子の姿に気付いていないのか、それとも気づいているけど気づかないふりをしているのか。やっぱり大事な息子に遊びに来てもらえると嬉しいもんなんですかね。
亡くなったお父さんも良多と同じくギャンブル好きで、コツコツと貯金していれば今頃は都心に一軒家でも買ったりとか、せめて3LDKくらいの豪華なマンションには住むこともできていたんじゃないかな、という思いも抱きながら、ダメダメな息子に今でも愛を注いでいるんですよ。

樹木希林の演技力は私が今更ああだこうだと褒めると逆に陳腐に感じられてしまいそうなので割愛しますが、相変わらず発する一言一言に重みを持たせられる女優さんですよね。口調はあんなに軽やかなのに。
ボロボロで生活感に溢れた団地の部屋があんなに輝いて見えるのは、淑子さんが長年積み上げてきた幸せがそこに詰まっているからではないでしょうか。

彼のどの映画を見ても言えることですが、どこにでもありそうな日本の一般庶民が生きる風景をあそこまで美しく見せることができる映画監督は、是枝監督以外にいないと思います。

別に六本木で高い服を着てパーティしていなくても、湘南で恋愛をしながらプロサーファーを目指していなくても、
大切な人たちと積み上げていく小さな幸せはそれだけで美しいものだと教えてくれるようなんです。
きっと是枝監督は、それをこの世の誰よりも理解しているってことなんだと思うんです。ほんと好きだ、是枝監督。

ただ、前作「海街diary」から増えた「アレがアレしてアレなんだよねぇ」みたいな「アレ」という単語の連発は、自然さを出そうとしてるのはわかるんですけど、連発しすぎて逆にセリフが不自然になっちゃってるところもあるかも...

akdnsbfzdbsnzdoamvbdcxzv.jpg


しかし、それをイマイチ理解できていない良多がご執心なことといえば、愛想を尽かされて離婚してしまった響子(真木よう子)を尾行して、彼女に新しい彼氏なんかができていないか監視すること。

もう自分ことを相手が好きじゃないことくらいわかっていてもおかしくないでしょうに。でも、男ってこういうところあるんですよねえ。自分が原因で相手に愛想を尽かされたっていうのに、追いかけ続ければまた戻れるんじゃないか、なんて思っちゃうところ。
男性の皆さん、ここまでストーカーチックなことはしてなくとも、別れた相手に未練タラタラっていう経験、ちょっとは有るんじゃないでしょうか?

探偵事務所で「今でも奥さんに未練タラタラなんですねえ」とあっさり指摘された時、良多は
「僕のは焼きもちじゃありませんよ。責任感だ」なんて返すんですが、責任感がある男性は養育費の支払いを差し置いてギャンブルにお金をつぎ込みません。

で案の定、響子さんは新しいお相手を見つけていたようなんですね。
それが会社の代表をしている福住(小澤征悦)さん。男らしくてしっかりしている福住さんは、良多よりも明らかに父親に向いていそう。

この日も良多と響子さんの間にできた一人息子・真吾(吉澤太陽)の野球の試合を見に来ていた福住さんと響子さんは、試合の後にバッティングセンターに行ったり、豪華な客船風のレストランで優雅にディナーを楽しんだり。まさに幸せな家族っていう感じの休日を過ごしているわけです。

福住さんの描写がまたねぇ〜。
野球の試合を見ながら、相手の子どもたちがいるっていうのに「ピッチャーびびってんぞぉ〜!」と大声を出してみたり、バッティングセンターでも「腰を使って打つんだよ、腰を!」と、真吾を差し置いて自分が一番楽しんでたり。

いますよね、自分の中にみなぎる自信を微塵も隠そうとしない男の人。「自信がある男はモテる」っていうのはよく聞きますが、自信がありすぎて遠慮がなくなっちゃってる系の男性は逆に困らんか、って思うのは私だけですか。

そんな福住さんは、ディナーの席で、真吾との面会のために今でも良多とあっている響子さんに対して「あんな男と会うのは、真吾くんのためにも良くないと思う」と言ってみたり、良多の唯一のヒット作についても「時間の無駄っていうほどじゃあないけどさぁ...」と堂々とけなしてみたり、とにかく好きな人の前の旦那のことをよくもそこまで貶せるな、というレベルの悪口を言いまくるんです。

でも、やっぱり一度は結婚まで至った人のこと、完全には嫌いになることもできないじゃないですか?
それは福住さんに良多の著書の感想を求める時の、響子さんの必死そうな表情だったり、酷評された時のがっかりした細かな表情にも見て取ることができます。

真木よう子も相変わらず、自然を超えたレベルに人間らしい演技を見せてくれてますね。
良多との関係は終わったけど、人間としては頑張ってしっかりしてほしい、という微妙に揺れる心をうまく表現しきっています。

jfiefsfdvbcxjkvz.jpg

そしてやってきたのは、良多の毎月の楽しみとなっている、真吾との面会の日。
お金もないのに、見栄を張って真吾にMizunoのスパイク(高いんですかね)を買ってやるよと頑張る良多でしたが、その実、面会の日には必ず養育費の5万円を払うことになっているのです。当然何ヶ月も滞納しているんですけどね。

真吾と面会して何をやるかっていうと、スパイクを買うのはもちろん、ちょっと高めのハンバーガーであるモスバーガーをご馳走してあげたり、最終的にはなんと宝くじを買ってやったりするのです。

またギャンブルかよ...つーか子どもにギャンブルの類を教えんなよ! と思う方もいると思うんですが、良多が言うには宝くじはギャンブルではなく、「300円で夢を買うんだよ」ってことみたいなんです。
彼が今の問題よりも未来や過去なんかの手が届かないものばかりを追いかけているっていう性格がよく現れたセリフだな、と思うんですが。

17時には響子さんとも集合し、養育費の10万円を返して本日は終了...と言いたいところなんですが、もちろん返すお金なんて、良多が持っているわけもなく。

そうだ、母さん(淑子さん)の家で集合にすれば、響子さんだってうるさいことは言えないだろう、と「真吾がどうしても行きたがってる」なんて嘘をついて淑子さんの家に行くことにした良多でしたが、その日は台風24号が近づいていた日。夜には家に帰るのも困難になってしまいそうだというのに...

淑子さんの住む団地に着くと、案の定強い雨と風が吹き出して、車もなしに家に帰るなんて無理な状況になってしまいました。
真吾を迎えに来た響子さんも一緒に、久しぶりに家族4人で一夜を明かすこととなります。

久々に取ることのできた、家族水入らずの時間。
ここで響子さんとも距離をもう一度縮められたら...というちょっとの希望さえ抱いていた良多ですが、やっぱりもうね、一度壊れてしまったものを「やり直す」なんてことはできないんだなぁ...

今になって「そんな一生懸命父親になろうとするんなら、なんで一緒にいる時にもう少しさぁ...」と言う響子さんのセリフはまさに正論なんですが、でもね、その後の樹木希林のセリフでも説明されているように、どうしてか「男は今を愛することができない」生き物なんですよ。

だから遠くにある夢をいつまでも追いかけているふりをし続けたり、過去に失ったものを今からでも取り戻せるんじゃないかと無駄な努力を続けてみたり、なのに今目の前にある大事なものに気づけなかったり。

もしかしたら、良多は今頃有名な小説家になってて、3LDKのマンション、いや、目黒の一軒家で響子さんと真吾と仲良く暮らしていたかもしれないですが、何がどうなってたらその夢は叶ってたのかなんて、今になってみれば誰にもわからないことじゃないですか。

わかっているけど、追いかけるのをやめることはできないんです。それをやめたら、自分で自分を保てなくなってしまうかもしれないから。それってダメなことなんでしょうか?

いいんです。いいんですよ。
手の届かないものに手を伸ばし続けることだって、人生を豊かにするためにはなくてはならない気持ちだと思うから。

だけど、目の前にある大切なものをもっと大切にする気持ちに気づけたら、もっと目の間に広がる世界は開けていくんじゃないか。

そんなことを教えてくれるこの映画は、たしかにすごく波のある映画じゃあありません。どこまでも静かで、でも誰もの胸の中にくすぶっている何かをそっと抱きしめてくれる優しい映画です。

誰もがなりたかった大人にはなれません。
でも、それでもいいんだと、今目の前に広がるものを大事にしていこうと思える今作を、みなさんもぜひ劇場でご覧ください。



関連記事
スポンサーサイト
Theme: 映画感想 - Genre: 映画

Comment

Leave a Reply


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

2016/06/10 (Fri) 00:22

21日のことですが、映画「海よりもまだ深く」を鑑賞しました。 15年前に文学賞を一度受賞したが その後は売れず、作家としての夢を追い続けている中年の良多。 現在は「小説のための取材」と探偵事務所で働き、別れた妻 響子に新しい恋人がいることを知りショックを受け...

笑う社会人の生活 - http://blog.goo.ne.jp/macbookw/e/78235004f82ec843cbaeb4878b871675