怒り ネタバレちょっとあり感想 信じたいのに。

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オススメ度 ★★★★★



あらすじ


東京は八王子で、夫婦が惨殺されるという凄惨な殺人事件が起きた。

現場には「怒」の血文字が残され、犯人は事件から1年が経過した現在も逃亡中。未解決のままだ。
犯人は現在、顔を変えて逃亡している可能性が高い。
そんな時、日本の全く異なる地域に、素性の知れない3人の男が現れた...


東京に出て行った娘の愛子(宮崎あおい)が風俗店でボロボロになっていると耳にした槙洋平(渡辺謙)は、地元である千葉の漁港に彼女を連れ戻す。

久々に地元に戻った愛子の目を引いたのは、田代(松山ケンイチ)と名乗る謎の青年。この2か月ほどここでバイトとして働いているという彼に、愛子はだんだんと惹かれていって...


東京は新宿。今日もゲイのクラブで相手を探していた藤田優馬(妻夫木聡)は、その後移動したハッテン場でうずくまっている一人の男と出会い、セックスをする。
彼の名前は大西直人(綾野剛)。仕事もない、身寄りのない彼を不思議に思いながらも、優馬は彼を家に住まわせてあげることを決める。


母親と一緒に沖縄の離島へ引っ越してきた小宮山泉(広瀬すず)は、友達の知念辰也(佐久本宝)の地元の島へと遊びに来た。
そこで出会ったのは、どうやってここに来たのかすらわからないバックパッカーの男性。
田中(森山未來)と名乗るその男には、どこか危なげでありながら、爽やかで親しみやすい不思議な雰囲気があった。

ある日、本島は那覇へ映画を観に行った泉と辰也は、偶然にも田中と出くわし...


一見なんのつながりもないように見える3人の男たちだが、彼らには一つの共通点があった。
八王子の殺人事件の犯人と、顔の特徴がそっくりなのだ。

ニュースで連日犯人の特徴が報道され、彼らに関わる者たちも、もしかしたら自分の身近にいる彼こそが犯人なのではないかと疑い始める。

もしかして、自分の愛する人は、殺人犯なのか...?

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感想


人間ってみんな、やっぱりどこかはおかしいわけで。

もしかしたら、今電車で隣に座ってる人は捕まっていないだけで痴漢の常習犯かもしれないし、お隣さんは近所に住む野良の動物を殺して楽しんでいるサイコパスかもしれません。だから「知らない人について行ってはいけません」と子どもたちに教えるわけじゃないですか。

けれどじゃあ今自分のすぐそばで、なんでもないように過ごしている友人や恋人には怪しいところって一つもないのでしょうか。
自分が愛する家族や恋人が、もしかしたら犯罪者かもしれない...っていう疑いが生れちゃった時、相手を最後まで信じ抜いてあげられるんでしょうか。

超豪華な実力派俳優7人(+新人さん)が集結したこの秋最大の話題作「怒り」は、人を信じることの難しさを切り口の違う3つのエピソードから描いた、最高のサスペンス映画でありヒューマンドラマとなっています。

物語の始まりは、とある残虐な殺人事件から。
東京都は八王子にて、一軒家に住む夫婦がお風呂場で惨殺されていたのです。
犯人の名前は、山神という男性。彼がどこに行ったかの手がかりはほとんどなし。一年以上逃げおおせている今、彼は顔を変えて逃走しているんだとか。

現場に残されていたのは、巨大な「怒」の血文字。これが意味するものは一体なんなのでしょうか...

そんな折、東京・千葉・沖縄に1人ずつ、素性の知れない謎の男が現れます。
全く異なる場所に現れた彼らには、一つの共通点が。テレビで放映されている事件の犯人と、顔・背格好などの特徴がそっくりなのでした。

今作は、その3人の中に事件の犯人がいるのか? という謎の解明に、その近くにいる人々の反応から迫っていくという群像劇となっています。

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一人目の男は、千葉に。...と言っても話の始まりは東京からですが。

千葉の漁港から東京に出て行った娘の愛子(宮崎あおい)が新宿にある風俗店でボロボロになっていると耳にした槙洋平(渡辺謙)は、彼女を地元に連れ戻すために店を訪れます。

客の過剰な要求にも必死になって答えようとするがゆえに心身ともに壊れかけだった愛子ちゃんをなんとか連れ戻した槇さんでしたが、それでも彼女の人生に対する不安は拭えません。

地元に戻った愛子が目にしたのは、彼女がそこにいた時には見たことのなかった男性。
田代(松山ケンイチ)と名乗る彼は、ここ2か月ほど漁港でバイトとして働いている青年。どこから来たかもわからないし寡黙で自分のことは語りたがらないですが、仕事もきっちりこなすし、槇さんからも一目置かれている存在なのでした。

愛子は、田代くんの持つ不思議な雰囲気に惹かれ仲良く...っていうか、あっという間に恋仲になってしまいます。

槇さんは日々デートを重ねる2人に一抹の不安を覚えるも、仕事の上では信頼している田代くんに「正社員にならないか」と誘います。しかし田代くんは「もう少しバイトのままじゃだめでしょうか」と不思議なことを言います。ここでずっと暮らしていくつもりなら、時給800円でバイトのままでいる理由もないだろうに...

ついには田代くんと2人で別のアパートに引っ越して暮らしたい、と言い出す愛子ちゃんに、槇さんは戸惑いを覚えます。
精神的に不安定で他の人とは変わっている愛子と付き合う男に、まともな男がいるわけはない...

田代はもしかしたら何かを隠しているのかもしれない、と疑い始めた頃、槇さんがテレビで目にするのが八王子の事件のニュース。
そこで放送されていた犯人のイメージ画像が、なんと田代くんとそっくりではありませんか。

この物語では二重の疑いが描かれています。
突然現れた素性の知れない男の正体についての疑いがありますが、そもそもその疑いを生み出してしまったのは、自分の娘がまともな人生を送れるはずがないだろう、という疑いですね。自分の実の娘、ですよ。

愛子ちゃんを演じた宮崎あおいはまっすぐだけどどこか危うげ、感情のままに動いてしまうけれど、自分の周りの人をがっかりさせたくない、自分にがっかりされたくない、という思いのせいで不安定になってしまっているキャラクターを、比較的短い出演時間の中でしっかりと描けていました。
彼女が田代くんのことを話す時、目がほとんど黒目なんですよ。真っ黒。ちょっと不思議な感性を持っていることがわかるというか。

渡辺謙の、すぐ近くにいるのに少し離れた視点でしか娘を見守れないことへの葛藤が見られる演技もまた素晴らしい。
劇中で「あ、あぃ、あい、愛子!」って言葉に詰まりながら愛子ちゃんの名前を呼ぶ時の不器用な感じとか、最高じゃないですか。
自分の娘を信じてあげたいけど、今までの行動から彼女は普通の幸せを手に入れることなんかできないんじゃないかと疑い深くなってしまっているんですね。

寡黙で何を考えているのかわからない田代くんには松山ケンイチ。
彼、怪しいんですよね〜。あの目つき。ちょっと猫背で、愛子ちゃんや槇さんが自分に関わる大切なことを話している時も、遠目から眺めている時の目線のやり方まで絶妙じゃないですか。

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次の舞台は東京。
東京にもこんなクラブがあったか! と叫びたくなる、高層ビルの屋上にあるゲイクラブから物語はスタートします。

このシーンもそうなんですが、日本を舞台にしているのにどこか非日常感が溢れているというか、幻想的な画作りには感激しました。もしくは、普段目にしているはずなのに、「こんなに綺麗なところだったか」と身の回りにあるものの美しさに気付かされるというか。

そこで「楽しいフリをしているのも楽しくなってきちゃった」レベルに達したゲイの男性・藤田優馬(妻夫木聡)は今夜の相手を探しにハッテン場へと移動。

みんながセックスの相手を求めて異様な雰囲気を醸している中、一人座り込んでうずくまっている人がいます。

こんなところまで来たのに、むしろ怯えているなんて不思議。
優馬くんはその男性の股を無理やり足で開いて、もうほぼレイプの域ですよ。嫌がる彼を押さえつけて、無理やりセックスをします。

ここの生々しさったらもう。もう!! 現実にこんなレイプまがいのセックスがあったら警察に通報レベルですが、それでも許せてしまうのは、きっとやられている方の男性だってそれを求めている気持ちがあることが伝わるからでしょうか。

ことを終えた彼らは、その場を出てご飯を食べに行くことに。
そこでわかったのは、彼の名前が大西直人(綾野剛)ということ。仕事もない、身寄りもない。どこから来たのかも言いたがらない。

不思議な雰囲気を持つ彼を、優馬くんは自宅に住まわせてあげることにします。
あっという間に恋に落ちていく2人でしたが、ゲイのカップルが日本で堂々と生きることは難しい。彼らにも色々な壁が立ち塞がってくるのでした。

優馬くんにはそれ以外にもとある問題を抱えていました。
愛するお母さんが病気で寝たきり。お母さんの看病にも通って、心の負担を減らしてあげたいという気持ちがあったはず。

で、優馬くんは親戚や友人はもちろん、お母さんにもゲイだってことをカミングアウトしてなかったはずです。
だから直人くんのことを初めてお母さんに紹介した時も「友達」だって言ったのでしょう。
でも、お母さんはきっと気づいてたんじゃないですかね。じゃなきゃあ突然男の子の友達を自分の病室に連れてこられて看病してもらうことをあんなにすんなりと受け入れていなかったのではないでしょうか。

直人くんのことを信頼して、何より愛していた優馬くんでしたが、その感情はある出来事を通して一瞬で疑いへと変わってしまいます。

ある日の午後、街を歩いていた優馬くんは、喫茶店で直人くんの姿を見かけます。
その時一緒にいたのは、何と女の子。自分といる時以上の笑顔で楽しげに話す直人くんの姿に、優馬くんは怒りを覚えます。
ただバイであることを隠して彼女とも付き合ってる? いやいや、それなら怒るほどのことじゃない。

何か、お前が俺のことを根本的な部分で裏切っているような...

役作りのために同棲してゲイの気持ちを知ろうと努めたという妻夫木聡と綾野剛の演技は完璧以上でした。
一緒に調理場にいて、ベッドの上でキスをする彼らの姿のなんて自然なことかと。
妻夫木くんの自然な演技の素晴らしさはいつも通りですが、綾野剛ってこんなに儚げで弱々しい演技もこなせるのかという驚きも味わえます。

そしてネタバレにならない程度にどうしても言っておきたいことが。
東京の物語にちょろっとだけ出演している高畑充希の演技があまりにも素晴らしすぎて、触れずに入られません。素通りできる演技じゃないですよ、あれ。主演を見事に喰ってたじゃないですか。ぜひ、劇場に行かれたら彼女の演技にも注目していただきたいです。度肝を抜かれること間違いなしですので。

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最後のエピソードは沖縄。

母親と一緒に沖縄の離島へ引っ越してきた小宮山泉(広瀬すず)は、友達の知念辰也(佐久本宝)の地元の島へと遊びに来ていました。
透明な青が驚くほど綺麗なんです。海と空がどんな苦しみも優しく包んでくれそうで、でもどこかそっけない感じもして。

ほぼ無人の島で出会ったのは、田中(森山未來)と名乗るバックパッカーの男性。
飄々として不思議な雰囲気を持つ彼はなんだか大人に見えて、どう見たって怪しい感じなのに、爽やかで優しく、どこか信頼できる感じさえして、もっと彼のことを知りたくなってくるような...
泉ちゃんと田中さんはどんどん交流を深めていきます。

そんな中、泉ちゃんのことが好きな辰也くんは、2人で那覇に映画を観に行こうと誘います。
けれど、辰也くんにはあまり人には見せたくないものがありました。彼の父親が、基地の県外移転を求めるデモの中心人物として活動していることです。

「あんなことして、何か変えられんのかな?」と訝しがる辰也くん。
何かを大きな声で叫んだって、誰にも気づいてもらえないのがこの世界。ただ恥ずかしいだけなんじゃないか、と疑っているんですね。

国際通りに出た泉ちゃんと辰也くんは、偶然田中さんに遭遇し、3人で飲みに行くことに...
ここからの展開は、この映画中もっとも衝撃的なシーンなため、ネタバレ厳禁で。先ほどの辰也くんの父親に対する疑念はここでがっつり回収されるわけですが、

広瀬すずさん、あなたは本当に素晴らしい女優さんですよ。
今一番の売れっ子女優、それも撮影当時17歳の女の子があれを演じますか。
リアルでした。彼女の苦しみが痛買った。きっと彼女はこの撮影で、心に消えない傷を負ったことでしょう。覚悟が伝わってくる演技でした。

森山未來くんも最高でしたね。爽やかで飄々とした中に、どこか狂気を感じさせるというか。あんなにナチュラルな演技しますか。

これら3つのエピソードを、時間軸のちょっとしたズレも気にならないほど自然につなげていった演出は圧巻。
今東京の話をしていたと思ったら、次の瞬間には沖縄に場面が切り替わっていたりとか、話の連続性とつながりを意識させると同時に観客を飽きさせません。

一人一人あげて行ってしまいましたが、主演陣の演技が一人残らず最高というのは、それぞれが作品に真剣に向き合ったということの表れだと思いますし、それに見合うエモーショナルで技巧に満ちた脚本になっていたと思います。

タイトルとなった「怒り」の意味は一体なんだったのか。それは観客一人一人の心の中で消化していくものかもしれませんが、
自分の思うように生きられない、ままならない社会への怒り、そして何より、愛する人すらも信じられずに傷つけてしまう、弱い自分への怒りなど、様々な形での「怒り」を鋭い切り口でリアルに描かれていたのではないでしょうか。

これを傑作と呼ばずになんと呼ぶというのでしょうか。映画好きなら見逃す手はない大傑作です。



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2016/10/13 (Thu) 01:54

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