紙の月 感想

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オススメ度: ★★★★☆

あらすじ:

銀行勤めの平凡な主婦,梅澤梨花(宮沢りえ)は,つい先ごろにパートから契約社員へ昇格し,仕事にも熱を入れて顧客や上司からも信頼されるようになっていた。

しかしその裏では,自分のことを気にかけてくれず,自分の方が重要で稼げる仕事をしているのだとことあるごとに暗に示してくる夫・正文(田辺誠一)や,
自分以上に仕事に誇りを持っている真面目一徹なテラーの上司・隅より子(小林聡美)の存在に,自分を押し殺しモヤモヤとした気持ちを抱きながら日々を営んでいた。

そんなある日,顧客の一人である平林(石橋蓮司)の家に行った彼女は,そこで出会った彼の孫・光太(池松壮亮)と関係を持つようになる。

そのうちに光太が大学の学費をサラ金から借りていることを知った梨花は,平林から預金として預かった金を横領し,光太に渡してしまうのだが...

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衝撃作にして問題作となった「桐島、部活やめるってよ」で日本中を席巻した吉田大八監督による最新作は,どこにでもいる普通の主婦が横領に手を染め,どんどんと堕ちていく様を描いたクライムドラマ。

監督が前作「桐島〜」にかなりの手応えを感じていることは明らかで,全体のトーンや空気感はかなり近いものがあります。
一つの大事件を起点にするのではなく,少しづつ,でも確実に泥沼へとはまっていく梨花の姿を実に生々しく描き出しており,これからどうなってしまうのかと思わずハラハラドキドキさせられてしまう展開は吉田監督の十八番といったところでしょうか。

画面上を支配するのは冷たい緊迫感と,押しつぶされそうな圧迫感。それはまるで梨花の快楽への逃避行が永遠には続かない,そして後ろめたい事実の上に成り立っているものだということを暗に示しているよう。

雰囲気作りバッチリの映像世界の中で,梨花の過去の映像を交えながら,もともと独善的で「他人に与える立場にいる自分」に病的な快感と優越感を持ち,そのためになら他人が必死に努力をして積み上げてきた財産すらも何の躊躇もなく奪えてしまう彼女が「モラル」や「世の中のルール」という壁を壊して壊して突き進んでいった先に,人との交わり合いのない世界へと辿り着いてしまう...
という過程を鮮明に,そして鮮烈に描き出したストーリーは見事としか言いようがありません。

そんな複雑な世界観を作り上げるためには俳優陣にも高いハードルが課せられるわけですが,今作でメインキャストを演じた3人の女優たちはそんなハードルを軽々と越えていってくれました。

正論の鎧でガッチリと身を固め,「モラル」の象徴として描かれる隅より子を演じる小林聡美のハードボイルドな演技と,「使わないお金なんてちょっと借りても,お客さん,以外とわからないと思うんですよね」など悪魔の囁きを体現する若手テラー・相川を演じた大島優子の凍りつくほどに無邪気で陽気な演技はまさに完璧といえるでしょう。

そしてこの映画を牽引しているのは,何と言っても主演である宮沢りえの,身も震えるほどの怪演でしょう。
一つ一つのシーンでの表情の変化,手の動き,声の震わせ方なんかの全てを使って,空虚だった梨花という人物が,堕ちていくほどにだんだんと美しさを増していく様を痛々しくも痛快に表現して見せた彼女の演技は,2014年という単年のみではなく,10年に一度レベルと断言してしまっても過言ではないはず。
彼女の堂々たる存在感なくしては,この作品の完成度は大きく異なってしまっていたはず。

今作も「桐島〜」と同様,モラルの観点でも作品が発するメッセージが結局なんだったのかという点においても,観た後はついつい他の人と語りたくなってしまうこと間違いなしの問題作。

「この作品の提起する問題とはいったいなんなのか」ということへの解釈を観客に全て放り投げてしまうのはどうなのか,という意見もあるとは思いますが,でも映画ってやっぱり,一人一人が違う観方をして,それを他の人とシェアすることによって理解を深めていくプロセスも楽しみの一つではあると思うのですよ。

間違いなく'10年代で最も「語りたくなる映画」の一本であるこの映画,映画ファンの皆さんは是非一度ご覧いただき,そして頭を悩ませて欲しい快作です。



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Theme: 映画感想 - Genre: 映画

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