ナイトクローラー (Nightcrawler) 感想

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オススメ度: ★★★★★

あらすじ:

学歴も人脈もないため定職に就けず、盗みを働いて得たものを売りさばくことで生計を立てている男、ルイス・ブルーム(ジェイク・ギレンホール)。本来の知能は高く物覚えの早い彼は、盗品を売った相手に自分を雇ってもらえないかと持ちかけるが、「コソ泥を雇う気はない」と一蹴されてしまう。

家路へ向かう道で車を走らせていたルイスは、自動車事故の現場に遭遇。そこで彼が目にしたのは、事故や事件の現場をの映像を撮影してテレビ局に売り込むカメラマンたちの姿だった。
彼らに触発されたルイスは盗品の自転車を売って手に入れたお金でカメラと警察無線受信機を購入し、それらを用いてカージャックの襲撃後の現場を撮影。

ルイスはそこで撮った映像を売り込みに、ローカル局へ向かう。そこでニュース番組の監督を務めるニナ(レネ・ルッソ)は彼の映像を気に入り、購入。ニナはルイスに、センスがあるからこれからも撮影を続けるように、と告げる。

その言葉通りカメラマンとして本格的に活動を始めたルイスは、アシスタントとして雇った若者・リック(リズ・アーメット)と共に次々と衝撃の映像を撮影していくのだが...

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最「恐」のお仕事ムービー、現る。

今は労働基準法に明らかに反した労働を従業員に強いる企業のことを「ブラック企業」なんていうキャッチーな名前で呼ぶことが一種の流行となっており、「こんなに辛い思いをしてまで働く意味って、いったいなんなんだろう...」という悩みを抱えている人が多い時代と言えるのではないでしょうか。私もその内の一人です。

そんな日本の空気を敏感に読み取った...わけはありませんが、これまで脚本家として活動してきたダン・ギルロイが初めて監督を務めたこの「ナイトクローラー」は、仕事で成功するために必要なこととは何なのか、という問いに対しどこまでも残酷で、そして痛快な答えを提示してくれる究極のサクセスストーリーに仕上がっています。

主人公のルーは本物のサイコパス。
人脈も学歴もないけれど口の達者さと野心だけは超一流で、自分の成功のためには人のものを奪うなど、モラルに反することにだって罪悪感の欠片も抱きません。
彼は物語の途中でアシスタントを雇ったり、ローカル局の監督に自分と性的な関係を持つよう脅したりしますが、彼が求めているのは人と人との繋がりではなく、自らのキャリアを先へと進めるために必要なビジネス上での関係。相手が自分のことを内心どう思っているかなんて、彼には関係ないのです。

最初は自分に影響を与えたカメラマンたちの真似事から入り、地道にキャリアを重ねていった彼ですが、機材もない、スタッフは自分を含め2人...なんて状況下では、ただの真似っこじゃ一企業の活動には敵うはずもありません。
じゃあどうやったらライバルたちを出し抜けるか?

そうだ、自分でスクープを生み出しちゃえばいいんだ!

ある交通事故の現場で、いい絵を撮るために死体の位置を動かし、最高のアングルで撮れた時の充実感たるや。
悲惨な事故で亡くなった人の遺体を恍惚の表情で眺めながら映像を撮るルーの姿には、多くの人が計り知れないほどの狂気を感じるはず。

この狂気に満ちたシーンを境に、物語の面白さは急加速していきます。

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アシスタントのリックのことは日給たったの30ドルで「法定労働時間? 知らない子ですね。」というほどの長時間こき使うわ、ライバル社の車には細工をして事故らせるわ、とにかくやりたい放題。「モラル」なんて言葉はルーの辞書には存在しません。

しかし、これこそが仕事で真に成功するために必要なものだとしているのが、我々の生きる現代社会であるとは思いませんか。
限りある資源を使って最大限の利益を生むためには、法定労働時間がどうとか、残業代がどうとかなんて言ってられないのですよ。今、自分の持つものからは、搾り取るだけ搾り取る。競争相手に勝つためには、相手どころか時には内部の味方さえも奈落に突き落として自分が這い上がる。

でも困ったことに、ルーは自称する通り大変に勤勉。仕事で稼いだお金は仕事道具のカメラや車に惜しみなく投資。贅沢な家に住もうなんて願望は一切なし。常にパソコンに向かってどうやったらもっといい仕事ができるかを常に研究する姿には、「確かにこれは成功もするわ」とおもわず納得させられてしまうというのも事実です。

一人の人間として見れば明らかに間違っているのに、仕事人として見ると意外なくらいまとも、というかむしろ尊敬できるところすら見えてきてしまうルーの姿には、「道徳観を捨て去ることこそが仕事で成功する近道である」という構図が成立してしまっている現代社会への痛烈な皮肉が込められていて大変に興味深いです。

この物語にここまでの深みが出たのは、主人公・ルーを演じるジェイク・ギレンホールの怪演があってこそ。
今作のために20ポンドも体重を落とし、大きなギョロ目を爛々と輝かせながら饒舌に相手を言いくるめていくルーの姿は、今年上映されたどんなホラー映画の幽霊よりもおぞましさと不気味さを感じさせるものです。この演技をもってしてもオスカーを取れないとは。勝者が一人しかいない賞レースとは残酷なものだなあ、と改めて感じさせられました。

BGMのチョイスもいいですねえ。
こんなにも陰湿で邪悪な物語が展開しているというのに、そのバックグランドで流れる音楽は驚くほど爽やか。観客からすると違和感を感じる演出であると思いますが、考えてみればそうですよね。モラルに反した行動だろうがなんだろうが、とにかくいい仕事をしたあとのルーの心の中はきっと一点の曇りもなく晴れ上がっているに違いないのですから。

そして最後に、ルーの助手であるリックについても触れておかないといけないでしょう。
彼もとんだクズ野郎なんですよ。ルーの助手になる前は、庭師として2ヶ月間だけ勤めたことがあるだけ。しかも辞めた理由が「花粉アレルギーだったから」ですって。すでにダメ臭ただよってますよね?

そんな彼は助手としても最悪。仕事はろくにできないのに口答えばかりし、自ら役に立つように動こうなんて考えは全くなし。暇さえあれば「給料をあげろ」だの「疲れたから休ませろ」というくせに、リスクの大きい仕事は絶対にしたがらない。

これってあれですよね。現代の「ゆとり世代」と呼ばれてる人たちのイメージそのものじゃないですか?

確かに労働基準法を守らない企業も企業ですが、その実、リックみたいに怠惰なくせに権利ばかり主張する若者も増えているのでは。「ブラック企業」という言葉は企業の問題だけではなくて、その言葉を何気なく使っている私たち若者の「労働」というものに対する意欲・態度の悪化も拍車をかけているんじゃないでしょうか。
現在社会人2年目、ゆとり世代ど真ん中の私も、リックの姿と自分の普段の態度を重ねてしまって、なんだかすごく申し訳ない気持ちになってしまいました。

こんな風に様々な角度から「労働」というテーマについて深く切り込んだこの作品は、文句なく2015年最高の社会派スリラー。
映画ファンの方はもちろん、働くことの意味について悩んでいるというみなさんにもぜひ劇場へ足を運んでいただきたい傑作です。

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2016/02/23 (Tue) 00:17

劇場公開で見逃したので、DVD化直ぐに鑑賞。 既にオープニングでまず驚くのは、ジェイク・ギレンホール。 のっけから、全く正気ではない目付き(笑) ろくな仕事もなくせこい盗みで、日銭を稼いでいた主人公。 その彼が偶然にも、自分の運命の仕事を見つける。 それ...

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